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#3-1

この道を通る時は、いつも公園の中を通るようにしている。
レストランでの打ち合わせの帰り道、想子は緑あふれる広くて大きな公園の遊歩道をのんびりと歩いていた。バスケットコートや運動場、競技場やマラソンコース、ここはいつも誰かしらが何かに打ち込み、その熱気が公園中を巡っていた。

少し陽の傾いた夕方。今日はお店には寄らずこのまま帰宅する事ができた。なので、好きな散歩コースをゆっくりと歩いているのだった。このまま歩いて行くとサッカーの練習場に差し掛かる。ここで見かける少年サッカーチームの練習を少しの間眺めてから家へと帰る、それが想子の一番好きな散歩コースだった。

今日もどこかのチームがグラウンドで練習している。その光景をフェンス越しに眺めながら、近くのベンチに腰をおろしぼんやりと思っていた。

「やけに上手い人だなあ」

グラウンドにはコーチらしい青年が2人。一人は場外で腕を組んで様子を見、もう1人は子供たちと一緒にプレーしている。

子供相手だから比較対象にならないのは当然としても、あの体のキレ、いくらなんでも上手すぎる。正確なパス回し、トリック。嫌が上にも想子の目はその青年の動きに釘付けになっていった。そしてその時ある一つの考えが頭をよぎっていた。

(遠目だから良く判らない。でも・・・)

想子はベンチからすっくと立ち上がるとフェンスに駆け寄り、ガシャン、と大きな音を立ててへばりついた。

圭だった。

それは紛れも無く雉子波圭その人の姿だった。子供達と一緒になって同じ顔をして笑い、同じ目をしてボールを蹴る。疲れて座り込むと子供達にわっと囲まれ、くしゃくしゃになって転がる。

(あんなに自然に溶け込んでいるなんて・・・)

それはまぶしい笑顔だった。今までどんな場面でも見せた事のない圭の最高の笑顔。それを想子は目の当たりにしてしまったのだ。

愕然としていた。そして少し切なくなった。でも嬉しかった。切なくて嬉しくてわけのわからない涙が出そうになっているのを想子は必死で抑えていた。自分自身の心がどこか遠くに投げ出され、さわさわとしたさざ波を伴いながら、生まれたての何かが温かさと共にトクントクンとこみ上げて来るのを感じながら。

身動きさえもできなかった。ただ凍りついた様にフェンス張り付いて、まるで映画のコマ送りの様に映る圭の一挙手一投足を、ただただ見つめている事しかできなくなっていた。

そんな想子の存在に一人の少年が気づいた。

「あの人ケイさんだって判ったんじゃないのー?さっきからずっとこっち見てるよ」

少年に言われた方を振り返ると、圭はそこに想子をみつけた。なんだか複雑な表情で自分の方を見つめている想子を。

「ああ、あの人知り合いなんだよ。ちょっと話してくるから」

そう言うと圭はすぐに想子に向かって走り出した。

凍り付いた想子はそのまま身動きも取れずに、徐々に大きくなるその現実感のない姿をじっと見つめていた。そしてその姿は目の前に現れるとすぐに、

「こんにちは。昨日はどうも」

と声を掛けた。

フェンス越しの距離。現実感のない現実はすぐ目の前に合る。

「偶然ですね。ここの近くに住んでるんですか?」

と少し上がり気味の呼吸を整えながら圭は続けた。

「いえ、そんなに近くは無いんですけど、昨日言ってた打ち合わせの帰りで。ちょうどこの公園に面した道を通るもので。この道を通る時はいつもこの公園を通って、ここでちょっとサッカーを見て行く事にしてるんです。でも、まさか雉子波さんがいるなんて思わなかった」

と、少し上ずった声で想子も答えた。

「そうだよね、まさか僕がこんなところに居るなんて誰も思わないよね。実は家がこの近くで、たまにオフの日はここで子供達と一緒にプレーさせてもらってるんだ。そんなにしょっちゅうじゃあないけど、もうコーチとも顔なじみだよ」

今日の圭はとても生き生きとしていた。圭がこんな顔を見せてくれるなんて、と想子はまた泣きそうになっていた。泣きそうでどうしようも無いくらいの幸福感。そんな想いを抱えながら、

「いい顔してますね、雉子波さん!」
 
と明るく笑った。

「もうすぐ練習終わるんだ。もしよかったら少し待っててくれないかな。せっかくだからちょっと話しでもしようよ」

と、圭はとても自然にそう告げた。

「え・・・?」
「いや、せっかくこんなところで会えたから・・・。無理かな?」

圭の声音がほんの少し曇る。それを受けて想子は

「い、いえ、どっちにしろ今日はこのまま少し見て帰ろうと思ってたので。じゃあ待ってます、終わるまでここで!」

とあわてて答えた。

それを聞くと圭は「じゃあ、後で!」と言って笑顔で少年たちの元へと戻って行った。

「おーどろいた、と」

緊張感から開放された想子はふーっと息を吐くと、ドスン、と音を立ててベンチに腰をおろし、くすっと笑った。

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