番外編
京都で圭がぬいぐるみを買ったあと、実は小さな男の子と出逢って少し話しをするんです。気に入っている深いシーンではあるのですが、直接本編には関係がないのでアップするときには省きました。が、やっぱり番外編として載せることにしました☆☆☆
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男性に見送られ店を出ると、先ほどまで圭が覗き込んでいたそのディスプレイに、小さな男の子がいた。男の子はかじりつくようにある一点をじっと見つめている。
「しょっちゅう来とるんですわ、あの子。どこの子か知らんのですが、その内母親らしき女の人に手を引っ張られて居なくなるんですがね」
少年の目はたじろぎもせずに、じっと一点を見つめている。その少年の目にともる力の様な物に魅せられて、圭は自然に声をかけた。
「いつもここに一人で来てるの?」
圭の声に、男の子は驚いて顔を上げた。
「ううん、お母さんと。お母さんがこの先の呉服屋さんに用がある時に来てるよ。お母さんが御用の間に僕はあの子を見てるの」
そう言った少年の先にあったのは、イギリスの紳士服の様な物を着せられたやや大振りな茶色いウサギのぬいぐるみだった。
「あの子が欲しいの?」
この年頃の男の子がヌイグルミをねだるのは少し珍しい気がしたが、圭は聞いてみた。すると少年は
「うん」
と言い
「でもお母さんは買ってくれないんだ」
と続けた。
「どうして?」
「男の子がそんな物欲しがるんじゃありません、って言うの」
大抵の母親ならそう言うだろう、と圭も思った。
「僕はなんであのウサギが欲しいの?」
と尋ねた。だけどその理由に耳を傾けるという行為までは恐らく誰もしないだろうな、と思いながら。
「解らない。でも、なんか初めて見た時にうわぁ~って思ったんだ。なんかすごいなあって。でっかいウサギだなあ、お洋服も見たこと無いくらいかっこいいなあ、って。だからいっつもいっつも気になってて、まだあるかな、まだあるかな、って近くに来たらかならず見に来てるの」
と、瞳を輝かせながら、男の子はまるでそれが昨日の出来事であるかの様に圭に語った。
「あれはロンドンからの輸入品でね。ひょんな事からうちにおるんですが、物がいいんでそこそこ値が張るんですよ。だから親御さんにすれば、一時の子供の言う事にそんなにお金を掛けてられないって言うのもあるんじゃないですかね」
側で聞いていた店の男性が一言説明を入れた。
「どうしても欲しいの?」
圭が尋ねると、男の子はうん、と頷いた。
「ずっと大事にするって約束する?」
男の子は意識したのかどうか、口元をキュッと真横に引き結ぶと更に大きく頷いた。そのしぐさに圭は
「よし、待ってて」
と男性を伴って店に入ると、そのウサギを受け取り表に出た。
「はい、これ」
ウサギを手渡された男の子は驚いてウサギと圭の顔を交互に見ていた。
「くれるのー?」
「お兄ちゃんからのプレゼントだ。でもさっき約束したように、ずっと大事にするって約束は守れるかな?」
圭は少年の背に届くように、クマを抱えたままその場にしゃがんでいた。
「する、するよ!絶対にする!ありがとうお兄ちゃん」
男の子が嬉しそうにウサギを抱きしめていると、用を済ませた母親が慌てて近づいて来た。
「まあ、どうしたのこれ」
「このお兄ちゃんが僕にくれたんだよ。僕ずっと大事にするよ」
すると母親は、困ったように圭を見た。
「まあ・・・、見ず知らずの方なのにすみません。お気持ちはありがたいんですが、やっぱり受け取れませんわ」
上品な奥様風の雰囲気が漂うこの母親は、物腰も柔らかに圭にそう言った。
「勝手な真似をしてすみません、お母さん。でも僕と彼とは男の約束をしたんですよ。それに今更返されてしまっても、お店の人もきっとがっかりするだろうし」
「でも・・・」
「お母さんは、なぜ今まで彼に買ってあげようとしなかったんです?」
「だって、男の子じゃないですか。もうすぐ小学校に上がるという男の子が、こんな女の子みたいな物欲しがるなんてみっともないし」
母親は、伏し目がちにそう告げた。
「そう、ですか。でも、彼には彼なりの理由があったみたいですよ。もしかしたら何かの可能性がその中に隠れているかもしれない。だから僕はこの子を彼に渡したいな、と思ったんです。お母さんはちゃんと理由を聞いた事はありますか?」
すると母親は黙りがちにこう言った。
「そんなの、ありませんわ・・・。ただ男の子だからだめ、って」
「じゃあ、許してあげてください。そして彼の話しをこれからはきちんと聞いてあげてください。そういうきっかけに、この子をしてくれませんか」
圭はいつの間にか立ち上がって、母親と向き合う格好で話していた。
圭の笑顔は優しかった。その優しい眼差しの中に見える率直な何かに打たれた母親は、
「今まで、そんな風に考えた事ありませんでしたわ。息子には息子なりの考えや想いがあるんですものね。向き合ってあげないといけないですよね。わかりました、お言葉に甘えてありがたく頂戴いたします。ー大事にするのよ」
と少年に告げた。
「やったあ!いいの?ありがとう、お兄ちゃん、お母さん」
男の子は嬉しそうにウサギを抱きしめたままその場でジャンプした。
「なんだか本当に余計な真似をしてすみません。でも子供にとって、歩むべく道探しを最初に手伝ってくれるのは親だと思うんですよね。だから、僕からのお願いです。見ていてあげてください。沢山話してあげてください。そして見つけたら大事に伸ばしてあげてください、彼の中にある大切な想いと言う物を」
***
「あれ?あれ圭さんじゃないですかね。何やってるんでしょう、あんなところで」
・・・と#14-2に続きます。
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